今川義元といえば、戦国時代における合戦でも特に有名な「桶狭間」で敗北した武将として有名です。いつの頃からか「麻呂」的な扱いになり、無能武将の代名詞のような扱いとなりました。
しかし、本当の今川義元は違います。駿河史においても名君だったと伝えられています。そんな今川義元について、もはや現代における戦国絵巻の第一人者ともいえる宮下英樹さんが、人気戦国時代マンガ「センゴク」の外伝として今川義元にスポットを当てているのでご紹介しましょう!
現代における今川義元像はヒドイ!
ゲームに見る今川義元
基本的には白塗り、お歯黒、眉無し、蹴鞠といった扱いです。戦国無双がそれにメタボが上乗せされていますが、BASARAでは阿呆が追加されています。いずれにしても、他の有名武将と比べると「海道一の弓取り」とは程遠い扱いです。
センゴク桶狭間外伝の義元とは!?
登場人物たち
主人公である今川義元は、かつてのイメージである「麻呂」からは遠く離れ、才気にあふれた英傑として描かれています。雪斎はもともと評価の高い軍師であったので、イメージ通りというものとなっています。
はじめは幼少の義元と雪斎が出会うところから始まりますが、今川当主に至る道や、織田信長編などを経て最終的な桶狭間合戦へと至ります。単純に桶狭間だけを描くのではないのが本作の特徴でもあります。
銭との戦い
センゴクではたびたびこういった場面が出てきますが、桶狭間戦記では「銭」の扱いも重要なものとして表現されています。特に2巻からは場面が一転し、織田信長視点に変わります。その中で、信長が如何にして銭を得ていくかが強く描かれることとなります。
雪斎の最後
歴史のタラレバの一つに桶狭間に雪斎が存命していれば・・・というのが在ります。確かに今川義元において雪斎の存在価値は大きいものがあります。また軍事、外交にも強い影響をもった彼が生き残っていれば、結果は変わったかもしれません。しかしIFはIFです。本作でも雪斎は決戦の3年前に死去します。これが分岐点だったのか?といえば個人的には敗戦の理由の一つにはなりますが、歴史の分岐点ではなかっただろうと考えます。
いよいよ桶狭間決戦へ
第四巻になって、ようやく桶狭間決戦の序章が始まります。1~3巻が無駄足ではなく、それまでの両者の生き様を見ることでプロローグとして重厚な下積みが描かれました。四巻では、様々な軍略を双方が張り巡らし、義元が桶狭間に軍をおくところで終わります。いよいよ終わりの時が近づいているのですが、マンガは最高潮の盛り上がりを見せていく場面となります。
義元の最後
本作では、信長の奇襲戦法についても作者の解釈を強く入れています。決して脇腹からの横槍奇襲ではなく正面突破による奇襲戦法だったという解釈です。こまかい内容は是非とも本作を読んで欲しいところなので省略しますが、1ページ1ページ手に汗握る展開が続きます。
このセンゴク外伝は応仁の乱から始まる戦国時代を「小氷河期」と評しています。その食糧難の時代を、強き者として描かれた今川義元。一方弱きがゆえに銭の力をかり、下克上を果たしていく織田信長という対比で描き、この「時代は我を選ばぬか」に至ります。
マンガ自体も単に今川義元が討ち取られて終わるわけではありません。エピローグも丁寧に描ききったことで、「桶狭間戦記」として戦記絵巻を完成させています。
本作で描きたかったもの
作者である宮下さんは、センゴクを執筆するにあたって資料を調べて「独自の解釈」を常に取り入れていることが多いです。それが史実に即したものか否かは歴史学者に任せるとして、調べている分だけ読者に強い説得力があります。
そういった意味では、この今川義元に関しては宮下さんが桶狭間合戦を調べた中で、単に通説が納得いかなくて執筆したという訳ではなく、今川義元という人物への魅力。そしてその今川義元を教育した雪斎の魅力を再評価し、既存の扱いに納得がいかなくて執筆したのでしょう。
また、センゴクではどうしても戦国時代初期を描く事ができません。しかし今川義元を扱うことで応仁の乱~戦国時代をいう時代を描く機会としたのではないでしょうか。
センゴク外伝への感謝
わたしは静岡県のまさに駿河出身です。小さい頃には雪斎のいた臨済寺にも幾度と無く訪れています。山門には石段があり、その石段を上りながら幼いながらに雪斎や今川義元や竹千代への思いを馳せていました。それだけ現在の駿河においても今川の香りが残されているのです。そんな今川家の君主があんな阿呆に描かれているのには、長きにわたって許しがたい状況でした。
しかし、このセンゴク外伝のおかげで多くの人に今川義元を再評価してもらえる機会が増え、マンガだからこそ若い世代にもストレートに伝えられる。そういった魅力ある作品に感謝しています。
更なる期待
センゴクでは戦国武将である仙石秀久を主人公に信長や秀吉などといった、いわゆる戦国時代のオールスターが登場します。そういった中で、他の戦国大名は「敵」としての扱いになりがちです。しかし、こうやって個別にスポットを当てることで、ただ滅ぼされるだけの存在ではない、個々の戦国武将がより際立ってきます。
本編であるセンゴクがまだまだ当分終わりそうにないペースで進んでいるだけに、今後どれだけこういった外伝が描けるかわかりませんが、是非とも他の戦国武将にもスポットを当てていただけることを期待したいです。